基本構想


 「社会技術」の定義として、1)社会問題を解決するための技術、2)科学技術に対する社会的ガバナンスの2つが考えられるが、本研究では、この2)の視点からの研究をすすめる。この科学技術に対する社会的ガバナンスをめぐっては、過去にも多くの議論がなされてきた。しかし、基盤的知識の共有・蓄積が欠如しているため、課題や場面ごとにプリミティブな議論を繰り返しているのが現状である。科学技術の課題ごとに各分野の人々が個別に論じ、相互に枠組みを共有してこなかったがゆえに、同型の問題をいつも一から議論しなくてはならない状況である。このような現状の問題点を克服するためには、科学技術に対する社会的ガバナンスについての理論的知見の蓄積と共有をはかることが必要である。
 このような背景をふまえ、本研究では、理論的知見の蓄積と共有をはかるための事例の構造抽出を行い、事例分析の枠組みの共有をはかることが狙いとなる。第一に、従来の統治者―被統治者モデル(加害者―被害者モデル)を超え、開かれた公共空間での多様な利害関係者による共治のモデルを考える。第二に、科学技術政策(国レベル)、地域社会論、市民運動論(地域レベル)、科学哲学、科学論(科学技術そのもの)というように、個別に論じられてきた研究を相互に結び合わせ、これらの「積」となるような理論構築をめざす。第三に、事例から構造抽出、共通の枠組みを作る過程で、公共の現場の問題から学問的営為を捉えなおすアプローチをとる。
 これらを通して、現在の日本の科学技術論研究に足りない面を発展させることが目標となる。具体的には、輸入学問主導で、事例分析も海外の事例が中心である現状に対し、日本の事例を固有に分析し、比較検討し、海外にむけて発信していくことが期待される。さらに、これまで抽象的な科学論と市民運動家とに二分していた現状に対し、その両極端をむすぶ公共空間論を展開することが期待される。
 将来的には、本研究をもとに公共技術のガバナンスの事例分析集(STSハンドブック)の編纂を行う。これは、「社会技術」概念のさらなる精緻化に役立つことが考えられる。また、研究評価へ新たな視点を投じる。つまり、「科学技術の社会的ガバナンス」に役立つような研究の蓄積とは何か、科学者共同体によって閉じられた論文産出とは異なる知識産出の評価のありかたとはどういうものか、ということを考える基礎データとなろう。さらに、文系・理系双方から等閑視されている「科学技術社会」教育、すなわち、科学技術の社会的ガバナンスを、事件がおこるたびに一から分析・解説するのではなく、蓄積された枠組みを使って、過去の事例の分析枠から先に展開できる教育に役立てることができる。これらを通して、今後の公共空間を支える社会の構築へとむかう基礎資料を作ることが期待される。


研究内容


研究の進め方としては、以下の手順をとる。


1) 公共空間概念、事例分類軸の整理
2) 事例選択
3) 事例分析
4) 共通コンセプトの抽出
5) 海外事例との比較検討、国際発信
6) 「社会技術」の理論構築
 

 3)の事例分析から、4)共通コンセプトを抽出し、1)の事例分類軸の再検討を行う。また、各事例ごとに、5)海外事例との比較検討を行う。
 これら1)から5)を行いながら、適宜WSを開催し、国内外に研究成果を公表し、また今後の分析への発展に役立てる情報を得る。さらに、ハンドブックを編纂し、6)社会技術概念の再構築に役立てる。
3年間の研究計画は以下のとおりである。

2002年1月から12月 ハンドブックの骨格の作成(採用するコンセプトと事例の検討)
2003年1月から12月 事例分析開始。日本事例を国際WSで発表し、海外研究者からコメントを得る。
2004年1月から12月  ハンドブック出版にむけて事例分析をまとめる


年次研究計画


<平成13年度:平成14年1月から3月>


 当該年度は、まず1)公共空間概念の整理、2)事例分類軸の整理、3)関連情報の収集を行い、来年度以降の事例分析の対象となる事例を選択する基礎準備を行う。

1)公共空間概念の整理
 これは、平成11年度〜13年度 科学研究費補助金基盤研究(C)「科学技術知識の生産・流通・消費過程の総合的分析枠組みに関する社会認識論的研究」において行ってきた作業をもとに、政治学などの関連社会科学方面の関連概念をもとに整理する作業である。

2)事例分析軸の整理

3)関連情報の収集
 この収集には、3−1)ハンドブック編纂のための資料収集、3−2)事例分析として選択される可能性のある事例についての公表資料収集、の2つがある。

3−1)ハンドブック編纂のための資料収集
 最終アウトプットの参考となる、国内外で出版されているSTSハンドブックの収集と分析。

3−2)事例分析として選択される可能性のある事例についての公表資料収集

3−3)事例分析方法論リスト作成のための準備
3−4)publicによる科学技術認知地図調査のための準備


<平成14年度:平成14年4月から平成15年3月>


 当該年度は、まず1)公共空間概念の整理、2)事例分類軸の整理、3)関連情報の収集を行い、ハンドブックの骨格(採用するコンセプト×事例)を検討する。この骨格は、ハンドブックの章立てに反映される。
1)公共空間概念の整理

2)事例分析軸の整理

3)関連情報の収集
この収集には、3−1)ハンドブック編纂のための資料収集、3−2)事例分析として選択される可能性のある事例についての公表資料収集、の2つがある。

3−1)ハンドブック編纂のための資料収集
 最終アウトプットの参考となる、国内外で出版されているSTSハンドブックの収集と分析。

3−2)事例分析として選択される可能性のある事例についての公表資料収集

 上記1)から3)をもとに、ハンドブックの骨格(採用するコンセプト×事例)を検討する。この骨格は、最終アウトプットの骨格となる。


last updated:Apr.30,2002