科学技術計画論II:2000年度


科学技術計画論Ⅱ(水曜2時限)      
<授業のアウトライン>
  科学技術と社会との接点において、「公共空間」における意思決定を要する課題(たとえば遺伝子組み替え食品の規制、ヒト胚の実験使用の規制、地球温暖化問題への対処など)が増えてきているにもかかわらず、その民主的な意思決定の運用に関しては、まだ我が国ではきちんとしたプロセスが確定されてはいない。
 
  これには、意思決定のプロセス、たとえば科学者をふくめた専門家委員会の選定やその報告書の作成プロセス、報告書の意思決定への利用プロセスの透明性や公開性の問題がふくまれる。が、それにとどまらず、科学者(知識をもつひと)と市民(もたざるひと)の間でどのようなコンフリクトが生じうるか、科学者にも答えを出せない問題(たとえば遺伝子組み替えはどこまで安全か、については食品疫学までの安全性は確保できない)に対して、何らかの公共的意思決定をしなくてはならない場合、科学者はどこまでの仕事をするべきで、市民はどのようなことを科学者に対して迫るべきか、等の問いがふくまれる。これらの問いを考察する上で、輪講を通して基本的な思想的枠組みと分析ツールを習得することが本講義の目的である。

<参考としている講義>
米国ハーバード大学JFK校の講義
STP302:Science, Power and Politics
STP293:Critical Perspectives on Policy Analysis
Seminar: Social Science Perspectives on Environmental Assessment

<成績判定>  

  1. 輪講への参加(担当論文の報告)
  2. 最終レポート

<最終レポートの課題>

本コースで学んだ内容をより深める、探求する、批判する、あるいは分析概念やツールを応用してみることを最終レポートとする。下記のうちどれか1テーマを選び、A4要旨10枚程度で論述する。参考とした文献をレポートの末尾に明記すること。

  1. 現在、公共空間で論争となっている具体的なテーマを選び、この学期に読んだ文献をもとに、論争参加者の各立場について分析し、自分のとる立場を判定せよ。
  2. 政策文書(白書や各種答申)を、本講義で用いた理論的分析概念をもとに分析せよ。
  3. 各週のテーマとなっている理論的な課題の1つを選び、それについて論述せよ。
  4. 同じテーマが、異なる著者によって異なる形のアプローチをもって分析されているものを対象として、それについて論ぜよ。

担当論文報告上の注意

  1. 1時間報告、30分議論とする。
  2. 1時間で報告できるようレジュメを作成のこと。レジュメは詳細に、報告は簡潔に、が基本。
  3. p3のReading-Questionに答える項を作ること。
  4. 少なくとも2週間前から準備をすること。前日の徹夜で読み切れる量ではないことを自覚すること。
  5. 文献ファイル(パケット)は広域科学科の事務室保管とする。各自適宜コピーして授業にのぞむこと。

 
10/18  導入
10/25  ①公共空間とは何か 
 Edwards, A. Scientific Expertise and Policy-making: the Intermediary role of the Public Sphere, Science and Public Policy, Vol.26, No.3, 163-170,1999.

11/1   ② 科学者と市民と行政のコンフリクトの定式化
 科学政策と社会構成主義~サイエンス・ウォーズで歪められた社会構成主義の意義 
 Jasanoff,  Is Science Socially Constructed - And Can It Still Inform Public Policy? Sceince and Engineering Ethics, Vol.2,No.3, 263-276. 1996.

11/8   ③ 科学技術の不確実性とは何か
 Beck, The Risk Society, 1986.

11/15  ④ 社会構成主義とは何か        
  Sismondo, Some Social Constructions, Social Studies of Science, Vol.23,515-53,1993.

11/22  ⑤ 客観性の政治学、標準化の政治学                   
  Deroscis, How to Make Things Which Hold Together: Social Science, Statistics and The State, Sociology of the Sciences(Yeay-Book) Vol.XV, 195-218,1990.
  Noble, Social Choice in Machine Design: The Case of Automatically Controlled Machine Tools, and a Challenge for Labour, Politics and Society, Vol.8 No.3-4, 313-47, 1978.

11/29  ⑥Folk-knowledgeとは何か
  Wynne, Misunderstood Misunderstanding: Social Identities and Public Uptake of Science, In Irwin, A. and Wynne, B. Misunderstanding Science, Cambridge University Press, 19-46,1996.

12/6    休講
12/13  ⑦専門家利用の形態、専門家委員会の公開性
  Renn, O. (1995) Style of Using Scientific Enterprise: A Comparative Framework, Science and Public Policy, 22(3), 147-156.

12/20  ⑧科学と政治の境界
  Jasanoff, Contested Boundaries in Policy-Relevant Science, Social Studies of Science, Vol.17, 195-230, 1997.

1/10   ⑨科学と政治の共生産
  Jasanoff, Beyond Epistemology:Relativism and Engagement in the Politics of Science, Scoail Studies of Science, Vol.26, 393-418, 1996.

1/17   ⑩ 公共空間における科学技術の管理:専門主義と公共性(総合討論)

 
Reading-Question
10/25  ①公共空間とは何か 
1. 公共空間とはどのように定義されるか
2. 日本の公共空間はどのような状況にあるといえるだろうか。化学物質の規制、遺伝子組み替え食物の規制、ヒト胚使用をめぐる規制、等の論争を例に考えてみよ。

11/1   ② 科学者と市民と行政のコンフリクトの定式化
1. 筆者は、科学政策と社会構成主義との関係をどのようにとらえているか。
2. サイエンス・ウォーズにおける表層的な社会構成主義の定義に対し、筆者は社会構成主義をどのように捉え直しているか。

11/8   ③ 科学技術の不確実性とは何か
1. 科学的合理性と社会的合理性の違いについて筆者はどのようにまとめているか
2. 科学の不確実性の概念と「リスク」概念の関係についてまとめよ。

11/15  ④ 社会構成主義とは何か        
1. そもそも社会構成主義とはいかなる概念であったのか。筆者の分類枠に基づいて整理せよ。

11/22  ⑤ 客観性の政治学、標準化の政治学                   
1. 「客観的」という言葉が政治的に使われることの意味を説明せよ。
2. 標準化によって整備されるものと見失われるものとを解説せよ。

11/29  ⑥Folk-knowledgeとは何か
1. 筆者は、「科学者の知識」に対して「住民の知識」をどのようにとらえているか。具体例(たとえばp25の土壌分析など)を用いて解説せよ。
2. 本稿はイギリスの原子力発電所付近の住民の調査にもとづいている。この英国の例と、日本の東海村の例を比較分析してみるとどうなるだろうか(既存のデータをもとにした論評、あるいは調査計画)

12/13  ⑦専門家利用の形態、専門家委員会の公開性
1. 公共空間の意思決定に専門家の意見を反映させるやりかたには、国によって特色がある。それを説明せよ。
2. 日本の審議会システムの利点と欠点をまとめよ。

12/20  ⑧科学と政治の境界
1. 科学と政策の境界引きについて筆者の考えていることをまとめよ。
2. 「どこで科学者の自律性(autonomy)が終わり、どこから政策決定の意思決定がはじまるのか」という問いについて、日米の状況を比較せよ。

1/10   ⑨科学と政治の共生産
1. 筆者は社会科学、あるいはSTS(科学技術社会論)が社会や政策にどのように役立つと考えているか、そしてSSK(Sociology of Scientific Knowledge)を現実の問題に応用するときの「ふし穴」についてどう考えているか、をまとめよ。
2. 勝者―敗者に分ける論争の枠組みから、「共生産」の枠組みへのプロセスを簡単にまとめよ。
3. STSの現実世界へのコミットメントについてまとめよ。


藤垣裕子

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last updated: Apr. 24, 2002